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2019.04.25
子の引き渡しに関して思うこと     石森加奈子

 離婚問題に直面すると,両親のどちらかが子どもを連れて家を出てしまう,ということがまま起こります。
 この場合,一方当事者が子どもを連れ戻したいと思い,当事者間で話し合っても解決しない場合には,裁判所を通じ子を引き渡してもらうべく,子の引き渡し・監護者指定の審判等を申し立てることになります(ほとんどの場合審判前の仮処分もつけて)。こうして,裁判所で,引き渡しを認めるべきか否か(どちらが監護することが適切か)が判断されることになります。

 そんなときに,裁判所で用いられる基準のなかで,大変大きなウェートを占めていると思われるものに,「母性優先の原則」というものがあります。これは,乳幼児期の子どもの情緒的安定のためには母子の相互関係が大変重要であることに鑑み,(生物学的な母親ではなく)母親的な関わりをもってきた者を監護者とすべきだ,という基準です。

 これについて,私自身,疑問を感じていた時期もあります。しかし,子どもを産んで育ててみると,やはり,乳幼児の時期には子どもにとって母親の存在はとても大きいと感じるようになりました。うちの場合は夫もかなり育児に関わってくれていますが,それでも,子どもが不安を覚えるような環境で抱っこを求めるのは,現在のところ,私です。乳児期のいわゆる「ファーストパーソン」(子どもが一番信頼をおいてなついている人)は,その後の成長過程でも子どもに大きな安心を与える存在なんだと思います。

 そしてこのような基準の存在から,それまで母性的な関わりをしてこなかった親が,子どもを連れて家を出たとしても,他方の親が子の引き渡しと監護者の指定を申し立てれば,認められることがほとんどです。実際に,私が関わってきた子の引き渡し事件では,今のところ全てにおいて,子どもが乳幼児の場合には,母親側に監護権と子の引き渡しが認められています。

 そして,その場合,子どもは,一定期間母性的な関わりをしてきた親から引き離されて,違う環境で養育された上,結局もとの環境に戻されることになるわけですが・・・養育環境や監護者がころころ変わることが,子どもにとってマイナスであることは明らかです。

 それ以上に問題だと思うのが,その後の面会交流に与える影響です。一方が子どもを連れて行ってしまって,引き渡しで法廷闘争までした場合には,両親の信頼関係は最悪です。そのため,裁判所を通じて監護者が決められたとして,その後の面会を行うときに,スムーズにいくはずはありません。

 女性の社会進出が進み,父親も子育てに関わることが多くなった昨今,親権をどうしても取りたいという男性からの相談も多くなっています。このような相談に対して,母性優先の原則を説明し,親権をとりたかったら子どもを連れ去ってしばらく育てなければ難しい,と暗に連れ去りを肯定するような説明をする人がいるとも聞いています。

 でも,親権をとりたいがために,子どもを連れて家を出ようと考えている人がいたら,少しだけ考えてみてください。連れ去って,他方が引き渡しを申し立てて認められた場合には,子どもは何度も環境の変化に対応しなければなりません。また,一度連れ去りをして,子を監護していく親との信頼関係が損なわれた場合には,簡単には子どもと面会することができなくなるかもしれません。子どもにとってプラスになることはあるのでしょうか。

 離婚等により両方の親と暮らすことはできなくなったとしても,子どもにとって少しでも良い環境を作ってあげられるように,両親ともに考えて行動してほしいなと思うことが多く,こんなブログを書かせてもらいました。

 なお,母性優先の原則からすると,父親が子どもにとって母親的な関わりをしてきた「ファーストパーソン」である場合には,裁判所も,父親に監護権を認めるべきでしょう。しかし,父親が主として育児をしてきたという家庭をイメージできる人はまだ少ないというのが現状です。そのため,父親が監護権を得ようとする場合,それまでの子の監護実態についてとても丁寧な主張・立証が必要になると思います。子どもにとって父親による監護が最良なのであれば,そのような主張をするお手伝いもできたら良いなと考えています。


2018.06.21
全国付添人経験交流集会に参加してきました  岡安知巳

平成30年5月19日,富山市で開催された全国付添人経験交流集会に参加してきました。
少年事件において少年の権利を守り,代弁する者を付添人といいますが,私はしばらく付添人になっていないので,  少年事件の感覚を忘れないためこの交流集会に参加することにしたのです。

まず,友田明美先生(福井大学子どものこころの発達研究センター教授)による「子ども虐待防止最前線と      弁護士の役割〜マルトリートメントによる脳への影響と回復へのアプローチ」という講演会がありました。
先生によると,乳幼児期に家族の愛情に基づく情緒的な絆が形成され,安心感や信頼感の中で興味・関心が広がり,認知や情緒が発達することが脳科学研究の進展により明らかになり,そのような絆が形成されずに,親によるマルトリートメント(不適切な関わり。特に子どもに聞こえる状況で夫婦が口喧嘩することが最悪)がなされると,子どもの脳に悪い影響があり,思春期に非行に至る可能性が高まるとのことでした(詳しくは,先生著『子どもの脳を傷つける親たち』NHK出版2017)。
少年に限らず,今まで弁護人となった被疑者,被告人の多くが,子どもの頃に両親の仲が悪かったり,離婚したりしており,友田先生の話が胸にストンと落ちました。

続いての報告会では,大阪の弁護士2名から,2度も家裁から逆走(検察官送致)されたが最終的に家裁に戻った少年事件について報告がありました。
この事件は,家裁→裁判員裁判→家裁→裁判員裁判→家裁となった稀な事件でしたが,上記弁護士は,法務省の職員として少年の更生プログラムを作成した経験があり,2回目の裁判員裁判において,少年刑務所と少年院の処遇の違いを意見書にし,かつ自ら証言したことが奏功して,家裁に戻され,最終的に少年院送致となったとのことでした。

少年に限らず,刑務所で規律正しい生活をすれば再犯を防げるとは限りませんので,更生のためにどのような処遇をしていくかが課題となっています。特に,薬物事件,窃盗癖のようなアディクション(依存症,嗜癖)が問題となる場合には,矯正よりも治療が優先されるような体制を整える必要があると感じています。

翌20日は,毎年9月1日から3日に「おわら風の盆」の行われる越中八尾(やつお)に足を延ばしました。哀調のある胡弓の調べや優雅な踊りに魅せられて,ここ2年,風の盆を見に八尾を訪れているのですが,知人に蕎麦屋「月のおと」に連れて行っていただき,美味しい蕎麦とよもぎのシフォンケーキを味わいました。


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